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♯風と


 夕暮れの町はいつもおいしい匂いに包まれている。
 ハンバーグ、カレーライス、からあげ、お好み焼き――次々と風に乗ってやってくる匂いをいっぱい吸い込みながらボクは夢を見る。
 暖かくて明るいリビング。テーブルにはパパとママがボクがいて、そこにはほかほかの料理がたくさん並べられている。もちろんママの手作りだ。
 今日こそは、きっとパパもママもいる。テーブルにあるのも冷たいお弁当なんかじゃなくて――。
 ランドセルの肩ひもをぎゅっと握り締める。
 やがてボクの家が見えてくる。町外れにちょこんと建っている三角屋根の白い家。

 まっくらに静まり返った家から、風は今日も何の匂いも届けてくれなかった。

5/2/2025, 6:59:09 AM