あかみ

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風にふわり、と、なびく
桜の花びら、新緑の木々、少し窓を開けたカーテン
風鈴、金色の落ち葉
風をまとうと途端に目を惹かれるものたち
そういうものたちの中で一番好きなのは髪かもしれない
ショートや肩にかかるくらいのミディアムヘアがぴょんぴょんと舞うのも頬が緩むけど
とりわけ長めの前髪や、背中まであるロングヘア
ストレートでもゆるやかに巻かれたものでも
風とともにふうわりふくらみ、柔らかく揺れる様は本当に心奪われる

一年とちょっと前、好きな人がいた
風のような人だった
初めは突風、戸惑うまま吹かれていると徐々に春のそよ風に変わった
心地よさを覚えた頃には木枯らしとなり、あっけなく過ぎ去った

私は腰まで届くロングヘアをバッサリと切った
私は、風に揺れる柔らかな自分の髪がとても好きだった
短くなった髪は硬くなりごわごわしていた
もう風になびかせたくなかった
なびきたくなかった


春から初夏へ季節はゆるやかに移り変わる
前髪も横髪も目や耳を隠すくらい、襟足も肩につく長さ
少しずつ風とふわふわ遊ぶようになってきた
髪を揺らすこの風は私から生まれている
足元から、耳の後ろあたりから、あるいは体の真ん中から
上昇気流のように吹き、ひゅうひゅうと私を包む
小さくしゃがみこんでしまう時、風は手を引いてくれる
こっちよ、と風向きをかえて私を導く
ねぇどこ連れてく気?と訪ねても、どこだろうねぇ、とふうわりしてる
風の気ままさに肩すくめ、まぁ行ってみるか、と歩き出す
でも、このまま身をまかせても大丈夫だろうという妙な信頼も感じている
確かな形をもたないものをこんなに強く信じているのは不思議なんだけど
自分から生まれてるからなのか、風が心地よいからなのか
あ、でも辛いのはもう嫌よ?楽しいほうへ連れてってね?
風は少し伸びた髪をふうわり、柔らかく揺らした
それに満足した私、大きく両手を広げ伸びをする
おっけ、行こっか
鼻歌まじりに歩き出す

5/15/2023, 12:41:26 AM