いしか

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鳥のように空を飛びたい。
なんて、在り来りな事を思うのだろう。
鳥になったら、飛ぶよりもっと有意義で楽しい事があるのかもしれないのに。
それでもやっぱり、俺は空を飛びたいと思うのだ。

「ま、といいつつ、俺も鳥みたいに飛ぶけどな………」
俺が特攻として空を飛ぶまであと幾日もない。鍛え上げた肉体は、あと数日で、跡形もなく消えていくのだ。怖さなんて無いわけない。怖いに決まってる。けれど、それと同じ様に、お国の為に自分が行く。そう思う気持ちも確かに自分の中にあるのだ。

「……矛盾してるな……」
日本は勝てるのか、そんな事を口にしてはならない。そんなことを言ったら非国民と言われ、俺だけでなく家族まで罵られてしまう。そんなこと、あってはならない。

「………俺が居なくなっても、俺という人間が一人居なくなるだけで、日本という国が無くならない限り、人類がある限り、歴史は流れて続いていく。
そんな先の、未来のために……、俺は、おれっ、俺は、……っ、飛んで、いくんだ…」

不味い、涙が……、こんな所、見られてはいけない。見られたら、仕置をされる。
止まれ、止まれ、今なら誰もいないから、早く、早く泣き止め。
そう思えば思う程とめどなく涙が溢れてしまう。ぐちゃぐちゃに歪んで揺れている。

「……っ、花…っごめっ…。」
俺には将来を約束した幼馴染がいた。けれど、俺の特攻が決まり、この約束は破断となった。そして花は俺が特攻する同日に花は、違う男の元へとお嫁に行く。
花、どうか、幸せに。泣いてもいいから、強くあれ。花は強くて優しいから、きっと大丈夫。

「大丈夫…………っ、」
涙が乾くまでもう少し。
涙が枯れるまでもう一歩。

大丈夫。ちゃんと今この瞬間に気持ち全部流すから。ちゃんと、いけるから。

大丈夫。大丈夫。

繰り返すのは無敵の言葉。
思い出すのは、優しい声音。
最期まで背負っていく。最期まで思っていく。

8/21/2023, 10:38:59 AM