『ハッピーエンド』
君が死んだのは、3月の終わりだった。
淡い空と桜の美しい季節で、君の生まれた季節。
そして、僕と君が出会った季節でもあった。
君が好きだと言ったこの世界を僕は嫌っていた。
見るもの全てがモノクロで、楽しくも美しくもない。酷くつまらない世界を僕は生きていた。
ある日、僕はいつものように散歩をしていた。
桜の花弁が風に乗って空を舞う。ぼんやりとそれを眺めていると人にぶつかった。
すみません、と振り向くと相手は自分より幾つか年下そうな少女だった。
少女はふわりと笑って頭を下げる。
その笑顔が桜のようだと思った。
馬鹿みたいだろう?こんな表現、小説の中でしか見たことがない。
それでも、そう思ってしまった。
少し薄桃色に色付いた頬と綺麗に挙げられた口角に、僕は一瞬にして目を奪われた。
幸せだった。僕の世界は君によって鮮やかに色付けられて、たくさんの刺激に溢れた。
幸せとは何か、そう問われたら迷わず僕は答える。君と過した日々のことだと。
付き合って3年目の春、君が自ら死を選んだ。
僕だけのハッピーエンドを探してと遺して、桜と共に儚く散ってしまった。
どうして、僕を連れて行ってくれなかったのか。
一言、一緒に来てと言ってくれたら僕は喜んで命を差し出したのに。
桜の花弁が舞う。
君が死んでから、僕の世界はモノクロに戻ってしまった。君の遺書をもう一度読む。
いっその事、全て僕のせいだと言ってくれたら楽になれるのに。
書かれたものがどこまでも優しくて、読み終わると僕はいつも立てなくなる。
でもさ、君も分かっているんだろう?
君のいない世界で僕は幸せになんてなれないことを。ハッピーエンドなんて、どこにもないことを。
今日こそ、僕は君に会いに逝く。
出会った時と同じように、また桜が咲いたよ。
これが僕の描くハッピーエンドなんだ。
桜の木の下から君が消えて、僕も消える。
誰もいなくなって、花弁だけがはらはらと散る。
2026.03.29
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3/29/2026, 2:47:08 PM