【愛―恋=?】
純白を身に纏い、温かな光に包まれた教会を歩く。
祝福ムードの参列者の間を通り、牧師の前へ。
新婦が隣に並ぶ瞬間にも男性は正面を向いたまま。
今日、私は結婚する。友達未満の同僚と。
自由恋愛の時代に契約結婚なんて馬鹿げている。
今日に至る経緯を知ればそう言う人もいるだろう。
運命の相手だとほざいて強行した、ほぼ0日婚。
この結婚式も必要なのは形だけで、心は伴わない。
私は、しつこく結婚を急かす親を黙らせたかった。
彼は、群がる女性に対する防波堤が欲しかった。
互いにとって都合のいい、利害の一致で繋がる関係。
交際では弱いと言うから夫婦となる契約を結んだ。
私たちの結婚生活には、一年という期限がある。
契約結婚の発案は彼、期限を設けたのは私。
彼が同居を必須としなければ言うつもりはなかった。
疑われないために必須だとする言い分もわかるけど。
過去に同棲したときはひどくストレスが溜まった。
ただ合わない相手だったと考えればそれまでの話。
だけど、相手が変われば感覚も変わるとは思えない。
そして始まった結婚生活は、意外なほど心地いい。
二人で決めた契約内容が良かったのかもしれない。
自分のことは自分でする。互いの部屋に入らない。
顔を合わせたら少しでも言葉を交わす、などなど。
平穏な日々は流れるように過ぎ、ついに残り一ヶ月。
つまらないことを考えて眠れない夜があった。
リビングに行くと彼がいて、同じく眠れないと言う。
作ってくれたホットミルクを飲みながら、考える。
契約を破棄したいなんて、やっぱり私には言えない。
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────── 別の視点の話 ───────
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【愛―恋=?】Another Side
礼装を身に纏い、温かな光の溢れる教会にて待つ。
祝福ムードの参列者の間を通り、花嫁が隣に並ぶ。
緊張で顔も体も強張る僕は正面を向いたまま。
今日、僕は結婚する。一方通行の想い人と。
彼女は結婚を急かす親に嫌気が差していた。
偶然聞こえた、電話越しに言い争う声でそう知った。
利害の一致を訴えて実現した契約結婚。
だけど、それは僕にとっては心から望む結婚だった。
仕事の邪魔になる女性に困っていたのは事実だ。
とはいえ、それだけなら結婚までする必要ない。
それを求めたのは、僕のわがままのようなもの。
簡単に離れられないほどの繋がりが欲しかった。
思い出すのは何年か前、疲れきった彼女の姿。
当時の交際相手との同棲が原因だったらしい。
詳細は知らないが、どうしても合わなかったとか。
だから僕は、二の舞にならないようにと苦慮した。
僕の結婚の申し出に、彼女は一年の期限を設けた。
僕のことなど何とも思っていないのだと実感する。
つらいけれど、一年の間に何かを残せればいい。
決意に反して日々は穏やかに過ぎ、僕は焦っていた。
どうしようもないことを考えて眠れない夜があった。
リビングを訪れた彼女が、同じく眠れないと言う。
コンロでホットミルクを用意しながら、考える。
契約を破棄したいなんて、彼女は言ってくれないか。
夢のような生活は、あと一ヶ月で終わってしまう。
新たに見る彼女の姿に、想いは強くなるばかり。
結局こうして終わるのなら近づかなければよかった。
彼女が部屋に戻った後も、僕は一晩中眠れなかった。
10/16/2025, 8:42:25 AM