「恋バナしよう」
「何でだい?」
権力者がどこからかやってきてベンチに座ったかと思えばそんなことを呟いた。ちなみにどこから来たか検討がつかない。あっちは行き止まりだったはずだ。
「ん。なんか、うん」
「何が」
「恋、したことある?」
何も答えてくれず一方的に質問をしてきた。今日は機嫌が悪いのかなんなのか。
「ないな」
「⋯⋯⋯⋯ふーん」
「なんだい」
「⋯⋯⋯⋯ボクは、あるよ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯だれ、と」
言葉がカタコトになる。
ない、なんて完全なる嘘で、本当はあって。
でも『ある』なんて答えたら今の僕のように『誰』と聞かれて、そこで体のいい嘘をつけない僕は恋心を暴露してしまうかもしれないからと口を噤んだのだ。
だから、権力者が恋をしたことあるのは気になってしまって。
「⋯⋯⋯⋯いいね」
「何が」
「困ってるみたいな、驚いてるみたいなその顔」
「は」
「⋯⋯⋯⋯ふふ。元気でた。住人の様子見てくる」
立ち上がって去っていく。
なんだったんだ? 本当に。
構って欲しかっただけか??
見送り終えてから解答を誤魔化されたことに気づいて軽く舌打ちを鳴らした。
5/18/2024, 3:14:50 PM