つぶて

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力を込めて

「本って熟成期間があんねん」
 旦那が某アンミカさんみたいな口調で言った。
「次読みたい本は本棚に植えつける。そうすると、やがて今読みたい本へと熟成する。完熟した本は、するりと本棚から手に抜け落ちてくる」
 旦那はしなやかな手つきで本棚から小説を取り出した。何十冊とある積読本の一冊だろう。本屋に行っては数冊買い込み、それが読み終わらないうちにまた本屋に出かける。そうやって溜め込んできた本たちが、ずらりと壁際の本棚に収まっている。
「未熟な本たちは本棚に植わったまま抜けない。どれだけ力を込めてもだ。これは本屋に植わってる本と同じ。客が手に取る本というのは、その人にしか抜けない。逆に、買わなかった本は、その人にとって本棚から取り出すことができない」
 ほらね、と旦那は別の本の背表紙に手を添えて力を込めたが、本はびくともしなかった。しっかり植えられていて、引っこ抜けないらしい。
「知らなかった」
 私は一旦譲ってから、悠々と一ページ目をめくる旦那に尋ねた。
「で、資格勉強は?」
「うん? 今は熟成中」
 ほらほら、と本棚の参考書を掴む旦那。私は言った。
「力を込めろ」

10/7/2024, 6:49:45 PM