Nobody

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遠くから聞こえるお囃子の音
浴衣を着付ける祖母の優しい手
母親の急かす声

下駄を転がして歩いているうちに
空がだんだん赤らんでくるのが見える
夜の帷が降りて
提灯の灯りが濃くなってくる時刻

大きな鳥居を抜けると
喧騒に混じって火薬の匂いが鼻を突いた
弾かれたように母親と繋いでいた手を解いて
境内の裏へと駆け出す
境内の裏は表通りとは打って変わって人気はなく
巨大な御神木だけが佇んでいる

ふと視線を感じて見上げると
御神木の一番下の太い木の枝に
狐の面をした女の子が立っていた

ぶわ、と吹いた風が
遅い、と言っているみたいだった

濃紺の空にはもう星が瞬いている

[お祭り]#70

7/28/2024, 1:52:27 PM