かたいなか

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「『星空の下で』、『遠くの空へ』、『あいまいな空』、『星空』、『空を見上げて心に浮かんだこと』、それから今日の『空模様』……」
そろそろ『空』のネタが枯渇しそうですが、まだ空のお題来そうですか、そうですか。
某所在住物書きは過去の投稿分を辿りながら、「これの他に何が書けるだろう」と苦悩した。
「『くもり空の夜のテラス席』、『遠い空=遠い場所』、『晴れ雨あいまいな空を背景に日常ネタ』、『星空に見立てた、白い雨粒と青い池』、『空模様から連想する夏の食い物』。……コレの他だ」
で、何を書く?どう組み立てる?物書きはため息を吐き、明日こそは書きやすい題目が来るよう祈った。

――――――

最近最近の都内某所、某深夜営業対応のカフェ。
人間嫌いと寂しがり屋を併発した捻くれ者、つまり前回投稿分で初恋相手にディスられ、心をズッタズタにされていた雪国出身者が、
己の親友であるところの、宇曽野という男と共に、窓の外を見ながら、
片や氷入りのコーヒーとサンドイッチ、片や自家製アイスクリームを溶かしてミルク量を調整するタイプの紅茶を、それぞれ楽しんでいる。
容赦ない残暑は引き時を知らず、16時付近に発表された雷注意報を伴い、空模様はぐずついて、斯くの如しであった。

「惜しいなぁ。藤森」
「なにが」
「お前、昔なら雨も雷もそりゃ喜んで、今の10倍くらい幸せそうに音を聴いてたのに」
「そりゃ、例のあのひとに、呟きックスで『雨好きなの解釈違い』だの、『雷好きだって、おかしい』だの言われたから。心の傷にもなろうさ」

詳細は過去作6月4日と7月30日投稿分参照ではあるものの、
8年前、恋破れて、大きなキャリートランクひとつで区を越え逃げて、流れ着いた藤森が最初に立ち寄ったのが、このカフェ。
当時ボロボロに壊れた心のまま、「もう恋などしない」、「もう人の心など信じない」と泣いた厭世家は、上京初日に出会った宇曽野との真の友情に救われて、重傷だの致命傷だのから生還した。

都会と田舎のギャップ、初恋と失恋の落差、鋭利で利己排他的な言葉等々。
擦れて刺されて打ちのめされた心と魂の傷に、親友の手と、声と、強い瞳が、どれだけ善良な薬として機能したことか。

「俺は好きだぞ。雨の音を、目を閉じて聴くお前」
「はいはいウソ野ジョーク」
「お前があの失恋相手から、本当の意味で自由になるのは、一体いつになるんだろうな」
「もう十分自由だ」
「いいや。お前はまだ、がんじがらめのグルグル巻きだよ。そろそろ雲に捕まってるゲリラ豪雨じゃなくて、虹連れてくる天気雨にでも転職したらどうだ」
「すまない。比喩が独特過ぎて分からない」

ゴロゴロゴロ。
どこかで遠雷の聞こえた気がしないでもないカフェスペースは、心なしか窓からの光量が減じて、ひと雨来るか気のせいかの様子。
「そういえば宇曽野」
アイスクリーム浮かべた紅茶を僅かに揺らし、藤森が尋ねた。
「お前、傘持ってきてるか?」

「かさ?」
今日は別に雨の予報でもなかった……筈だよな?
ポカン顔の宇曽野は藤森の質問の意味を勘繰り、首を傾けて、
途端はたと己のスマホを取り出し、周辺の雨雲レーダーの状況を調べ始めた。

8/20/2023, 1:20:22 AM