愛颯らのね

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お題 梅雨


梅雨が好きな人なんて、いないと思ってた。
じめじめするし、髪の癖がでるし、何より〝雨〟が降る。

濡れるし空は暗いし気分が上がるはずがない。

きっと誰しもがそう思っていると
僕は決めつけていた。


君と出会うまでは。


「梅雨は憂鬱な気分になっちゃいますね。雨ばっかで。」

僕の隣の席に座った転校生。
よく手入れされているだろう美しく、黒く長い髪を持
君は顔を少しだけしかめた。

『私は、梅雨が好きです。人間の生活に必要な水が降ってく
るんですよ?素晴らしいことだと思います。それにお花も
育ちます。雨は悪いことってみんな言うけど、それは雨の
一面しか見ていないし、ただの思い込みのところもあると
思います。』

僕は唖然とする。
確かにそうだ。雨がない国が大変なのはきっとみんな知っている。そんな中、雨が嫌なんて贅沢だったのだろうか。

『それに、雨には縁起のいい言葉が沢山あるでしょう?』

「そうなの?ごめん。あまり詳しくなくて。」


「例えば、雨垂れ石を穿つ。
小さな努力も辛抱強く続けていればいつかは必ず成功するって意味。他には、雨降って地固まるとかこの言葉から、
雨の日の結婚式は演技がいいって言われてるんだよ!」

すごい。雨だけでこんなにあるのか。
きっとまだまだあるのだろう。
きっととても雨が好きなのだろう。
気づくと口調が少し砕けていた。

すると、君の顔が少しだけ赤く染まる。

「ご、ごめんね!私。こんなペラペラと喋って何様だよって感じだよね。本当にごめん!」

困り眉で顔の前に手を合わせる君。

そんな姿が可笑しくて思わず笑ってしまう。

『全然大丈夫だよ。それより、もっとお話聞かせてよ。』

「うん!」

ぱぁっと花火のように君の顔が明るくなる。
そんな君を見てどこか不思議な、苦しいような
ほわほわするような、そんな気持ちをこの時初めて感じた。

この気持ちの正体を知るまでは
きっとそう長くはかからないだろう。

6/1/2024, 12:20:16 PM