猫背の犬

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迸ってどうにもならない欲望を少しでも癒すために自分で自分を慰めたら、時間差でやってきた虚無に首を絞めらている。
ゼロ缶をストローで呑むのはよくないからやめなって、制してくれたあの子はもう居ない。
月明かりさえ差し込まない閉鎖的な暗い部屋でギターロックを爆音で聴いた。耳が壊れそうになるくらい大きな音で聴きながら、いつまでも泣いていた。特別に騒がしい曲を聴けば頭の中にある嫌なことすべてを粉砕できるような気がしたけど、頭が空っぽになる代償に涙が余計に止まらなくなった。なにをしたって苦しいのは変わらないみたいだ。
水道水は臭くて苦いから飲みたくなくて錠剤を噛み砕いて嚥下したら、胃が焼けそうなくらい痛くなった。惨めで可哀想な自分を慰めてあげなくちゃって、熱に浮かされてまた振り出しに巻き戻し。苦しくてたまらなくなるってわかっていても、芽生えた欲望を打ち消すことができない。欲望の赴くままに従っているうちに後悔も薄まっていく。
“ああ、これでまたまともから遠のいてしまったな”
頭の中で小さく響く自分の声。少し悪い気がしたけど、欲望の支持はいつもほんの少しだけ僕をいい気分にさせてくれるから、今は正気に戻るなんてできそうにない。何時間か先に居る自分に数回謝って、あとは欲望に意識を預けた。

そこは地獄の入り口で、一度踏み入ったら離してくれない。頭がおかしくなるまで僕を揺さぶり続ける。使い物になったら灰になるまでじっくり焼かれて終わり。

さみしいね、くるしいね。
嘆きには共感して頷いてくれても、目を合わせてくれる人は、ひとりも居なかった。
僕を見下ろす人の顔はみんな同じで、あの子に似た人は見つからなかった。
もうやだね、しんじゃいたいね。
知らない人の涙が僕の頬に落ちた。それは、からだの中を巡る血液みいなぬくもりに満ちていた。最も深いところ、いのちそのものに触れたような気がした。このまま続くような気がした。なのに、朝になったら冷たいベッドにひとりで眠っていた。その頃には落ちた涙も冷たく乾いてなくなっていた。
ぬくもりが消えていく過程は人が死ぬときと似ているなって思いながら、カーテンを開けたらよく晴れていて、生きていることを責められているような気分になった。
テーブルの上に忘れさられた煙草の箱を開けてみると、二本だけ煙草が残ってた。徐に咥えてガスレンジで火を灯した。回る換気扇へ向けて煙を吐き出すとき、昨日僕に触れた人も、あの子も、どうか幸せにならないでと願った。

3/1/2024, 12:22:45 PM