《やさしさなんて》
やさしさなんて、全ては偽善だと思う。
木の葉がかさりと風に揺れ、木々の隙間から温かな木漏れ日が差し込む中。
一人の少女は手持無沙汰に寝転んでいた。
体に刺さらないように柔らかく整えられた下草さえも、どうにも居心地が悪い。
まるで、世界が自分を赤子のように優しく包んでいるように思えた。
自分の母親は、この国の女王だ。
それもかなり独裁者で、気に入らなれば直ぐに首を刎ねる。
だから、だろうか。
この国の人間は、みんな。私にとても優しい。いつもニコニコとして、私が困っていたら、いや困る前に全ての困難を片付けてしまう。
……手持無沙汰だ。
私って、いったいなんのために生きてるんだろう。
だから、私はやさしさが嫌いだ。
やさしさなんて、なくなってしまえばいいと思う。
寝転んだ身体をうつ伏せにし、隠れて泣いた。
誰かの前で泣くことは許されてない。だって犯人探しがはじまって、誰かが勝手に死ぬのだ。やさしさによって。
私は一人で泣くことも叶わない。
……やさしさなんて、嫌いだ。
もう、こんな世界なんて、滅んじゃえばいい。
いっそ、死んで終わらせてしまおうか、いやそれだと私の死後に誰が悪かったかで誰かが死ぬことになる、それはダメだな……。
ふいに、ふわりと身体が浮いた。
「悪いな、嬢ちゃん。誘拐させて貰うぜ」
そんな声がして、視界がまっ白に覆われる。恐らく全身を布の袋か何かに包まれたのだ。
「俺に優しさを期待しないでくれ、俺はアンタの母親に両親の首を刎ねられたヤツでね……アンタに優しくしようなんて気持ちはこれっぽっちも持ってないから」
その言葉に胸がときめいた。
胸の鼓動が激しくなり、頬が熱く感じる。見えない状態で良かった。そう思う。
これが、これから二人で世界を巡って、笑ったり泣いたりする。
おっさんと小さな私の物語の始まりだった。
8/10/2025, 2:27:52 PM