泡沫

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学校帰り。突然、君が海に行きたいと言うので着いていった。
テスト後の放課後なら分からなくもないけれど、今日は全く普通の六時間放課なのだ。
電車に揺られながら、隣を見る。
ガラガラの席に座らずに、ドアの窓からボーっと景色を眺めている。だがその目には景色を写していないように感じる。
その姿に、思わず口を噤む。茶化す雰囲気でも無いし、事情を聞けるような様子でもなかった。
ただ、電車に揺られて駅に着くのを待っていた。
冬の海。潮風が冷たく吹いていて、とてもじゃないが冬に人が来るような所ではなかった。
その砂浜を、ただ無言で前に進む君。
靴が海に入りそうで、少し止めようと思ったが、寸前で立ち止まる。
しばらく、無言の時間。
ザザーっと、海の音だけが二人の空間を支配していた。
あのさ、聞いてもいい?
海の音に負けないようにしたからか、思ったよりも大きな声が出てしまった。
君は無言のまま、こちらを振り返りもしない。だから、そのまま続ける。
ここに来たいって、思った理由をさ。何かあったのか、聞いてもいい?
足元が浮遊したような変な感覚に囚われる。うまく立っているだろうか、うまく言葉を発しただろうか。
少し、振り返る。すっかり日が落ちるのが早くなり、黄昏時も、いつもより早い。その夕焼けに包まれて、橙色の逆光に染まる君の顔はよく見えなかった。
今はさ──少し忘れたいから、後ででもいい?
海の音に負けそうな声で、そう聞こえた。
無理に話さなくていいから、気が済むまでここにいよう
そう言った後の君の顔は少し、笑っただろうか。
さっきまで乾いていた君の足元は、塩水に濡れていた。
二人で、黄昏時が終わるまで水平線を見ていた。

1/24/2022, 1:15:50 PM