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幼少期から何よりも“らしさ”を詰め込まれた。
お兄ちゃんらしく、6年生らしく、男の子らしく――。

妹が出来て、家に雛人形が来た。僕は兜があたったけれど、雛人形の方が可愛くて、綺麗でずっと羨ましかった。
「お兄ちゃん出すの手伝ってー」
力仕事は苦手で居たかったのに、お父さんに似て筋肉がついたせいで、ずいぶんと得意になってしまった。お母さんは妹が生まれてから僕を名前で呼ばなくなった。
舞台の組み立てを終えて、段ボールから防虫剤と雛人形を取り出す。
包み紙を開けたときに広がる絢爛な金と艶やかな朱色の着物が好きだ。済まし顔に差した紅と、結わえられた髪が好きだ。
こんなに近いのに僕には届きはしない。まだ幼く準備を手伝えない妹の方がよっぽど、これに近い。

“らしさ”を詰め込まれたおかげで、“らしい”が何かをよく知った。おかげで、異端としてクラスで排斥の対象となることはなかった。
代わりに自分らしさというものには、いつまでも届かないまま、伸ばした手は掴む目的すら知らず、行儀よく膝に置かれる。
ああ! どう頑張っても女の子の日!
【ひなまつり】2024/03/03
ジェンダー差別を助長する意図などは一切ございませんと申し上げようか迷いました

3/3/2024, 1:28:28 PM