「ねえ、坂上くん」
僕は声の主の方を見る。
それはクラスのアイドル佐伯さん。はじけるような笑顔で僕を見ていた。
「は、はい、何・・・?」
僕はいつも、彼女のそのはじけるような笑顔に惹かれて、元気づけられている。
輝くその笑顔は、周りの人をひきつけて、佐伯さんの周りはいつも人が溢れている。
みんな佐伯さんの明るさと優しさを愛しているんだと思う。
僕には少しまぶしいから、その光を遠くから眺めているだけだ。
僕のおずおずとした反応に、佐伯さんは、ニコッと笑って小さな紙を渡してくる。
「はいっ、私ね今度の文化祭で体育館でチアダンスすることになってるんだ。今クラスの人にチケット配ってるの。よかったら坂上くんも来てね」
小さく切られた紙に、文化祭、チアダンス発表会チケット、と印字されている。
「へえ、佐伯さんってチアダンス部なんだ」
僕は佐伯さんの入っている部を知らなかったからチケットを見ながら意外に思う。
でも、よく考えると佐伯さんにピッタリだよな。
「そうだよ、毎日練習頑張ってるよっ!来たら絶対後悔させないようなダンスを踊るから、良かったら来てね」
また、まぶしい笑顔を僕に見せる佐伯さん。
ただ話しているだけなのに、佐伯さんを前にすると、何となく落ち着かない気持ちになる。
「も、もちろん行くよ。友達誘って行くから頑張ってね」
何とか声に出して応援の言葉を口に出来た。
「ありがと〜!」
そう言うと、佐伯さんは、僕の手を両手でかしっと握りしめてくる。
「はっ・・・えっ!佐伯さんっ!?」
僕が赤面して佐伯さんに言うと、彼女はハッとしたように手を離す。
「ごめん、ごめん、ついつい嬉しいとやっちゃうの。じゃあ、待ってるからね!」
僕に手を振ると、佐伯さんは自分の席に戻って、早速友達に囲まれている。
笑顔で会話してる佐伯さんは、相変わらずこちらの席から見ていてもとてもまぶしい。
僕は、佐伯さんの隣にいられなくてもいいから、彼女の光を遠くから見ていたいと思っている。
まるで光に憧れる植物のようだ。
光に憧れて、そちらへ伸びていこうとする。
でも、僕は彼女に近づいたりはしない。
佐伯さんは、僕にとっての憧れというだけで充分だから。
僕は手の中にあるチケットを見下ろす。
遠くから彼女のダンスを見届けたい。
それ以上を決して望まないように。
ホント?本当に?
心の中で小さな囁き声がする。
僕はあえてその声を無視した。
気持ちに蓋をして鍵を頑丈にかける。
これでいいんだ。
君は太陽のように僕には眩しすぎるから
2/22/2024, 12:11:06 PM