渚雅

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「世界の終わりはどんなふうに過ごしたい?」

それは,たわいもない ただの世間話。誰も世界滅亡なんて与太話を信じてもいないしほんの暇潰しのような話題だった。

ただただ話すこと自体を求めるために用いるテーマのひとつ。大抵はなにか特別で素晴らしい最後の晩餐を開くと答えるのが常。けれど,つまらなそうに本を眺めるその人物は 思いもよらない回答を返した。


「ねぇ,君は?」

直接話しかけてようやく視線をあげる。あからさまな程に渋々と言った様子のそれはいかにも話しかけるなと主張していたがそんなことは気にしない。


「……いつも通り過ごす」

それだけ口にしてまた文字を追い始めたその視線を遮り質問を重ねる。意味がわからなかった。

慎ましくとも最大限の日にしたいと願うのが当然だった。少なくとも僕達にとってはそれ以外の選択肢などありえなかった。


「なんで? 最後なんだよ」
「……なんで最後の日にまともに社会が機能してると思うの。それに最後なんて誰にもわからない」

だから事前に準備して普通に過ごす。明日が来てもいいように。

見下ろした先 影はそう言って小さく笑った。唐突に理解した。理解してしまった。あっさりリアルを語るこの人は日常に不満などないのだ。特別など さほど求めていないのだ。先を見通し幸せな未来を過ごす術を知っているのだ。だからもしもの時は普通に過ごしたいと言えるのだと。

ずるいと思った。だってこんなにも,僕達は もしもに縋るほどに生きることに必死なのに 君はひとり余裕を幸せを持っていた。


「過ごしたい日々があるなら叶えればいいんじゃないの?」

どこか不思議そうな表情で そんな当然な理屈を手渡してくる君は,誰より大人で自由で やっぱり憎かった。

君と過ごしたい。なんて言わせてもくれないくせに。




テーマ: «世界の終わりに君と» 104

6/7/2023, 10:49:40 AM