日の出
「初日の出が見たいの。」
何かの折にそう言った私の言葉を彼は覚えていてくれた。
そして、その願いを叶えるべく、気の遠くなるような渋滞とさざ波のように押し寄せてくる眠気と闘いながら、冬の海を目指している。
大晦日の話である。
私は助手席で暖房に温められ、うつらうつらうたた寝を始めていた。
何度か目を覚ましながらも、変わらぬテールランプの群れに再び目を閉じるのを繰り返すこと数回。
ギィー
サイドブレーキを引いた音で目覚めた私は、自分が乗った車が海岸沿いに停められたことを知った。
「着いた?」
「あー、一応な。」
何とも歯切れの悪い彼。
辺りを見回すとぼんやり明るくなっているではないか。
「太陽は?」
「方向的にはあっちだな。」
渋々彼が指さす方向には白灰色の分厚い雲がかかっている。
すでに明るくなっているということは、恐らくはあの分厚い雲の向こうに太陽は出てしまっていて、しかも隠れてしまっているのだ。
何とも残念な結末に、私は彼にかける言葉もなかった。
実は遡ること数年前、私は彼とは違う男性と初日の出を見たことがあった。
その人は私よりもだいぶ年上の何もかも手に入れたあとの男性だった。
その時に見た日の出があまりにも綺麗だったから、彼ともう一度見たいと思ったのだ。
「何か食いにいこうぜ。」
すっかり拗ねてしまった同い年の彼は、不機嫌を隠すことなく車を発進させた。
さして器用でもない、愛情表現だってかなりトンチンカンな彼は、翌年私の夫になった。
二十五年たった今でも変わらずこんな感じだ。
でもそれでいい、嫌それがいいのだ。
お題
日の出
1/4/2025, 4:08:53 AM