記憶の中では、私はあなたをいつも見上げていた。
あなたと話す時、私はいつもあなたと、あなたを取り巻く空を見上げていた。
あなたの背が、高かったから。
何度目かもうわからない「おはよう」を、今日もいつものように言って、空を見上げる。
あなたとの会話を重ねたあの日が、いつも私の目線を押し上げる。
結局、背は伸びなかった。
あなたと出会ってから、習慣になった朝の一杯の牛乳は私の骨を強くしたばかりで、背を伸ばしてはくれなかった。
眩しい朝日に目を細めて、空を眺める。
あなたはいつだって早起きだった。
いつも私より早く起きていた。
牛乳を飲み干したコップを、テーブルの上に置いて、しばらくあなたのことを考える。
それから、歯を磨いて、引き出しから便箋を取り出す。
あなたへ向けて手紙を書く。
今、思い出したこと、今日、あなたに伝えたいことを忘れないうちに。
ペンを走らせているうちに、アラームが鳴る。
起きれなかった時のために、かけていたアラームだ。
朝、私を起こしてくれていたあなたがいなくなってから、私はすっかり早起きになった。
手紙を書き終えて、便箋を丁寧に折りたたむ。
封筒に入れて、封をする。
宛先を書き入れて、切手を貼る。
そうしてできたあなた宛手紙を、二段目の引き出しに入れる。
あなたに届け。
届いて……。
念を押すように、そう願いながら。
今はもういない、あなたと私に届きますように。
届いて…届いてほしい、と到底現実的じゃない願いを込めて。
引き出しをしめる。
癖で空を見上げる。
窓から見える空は、今日も青い。
7/9/2025, 10:10:55 PM