『時計の針が重なって』
「2,872回」
「……はい?」
「長針、短針、秒針が24時間で重なる回数だよ。2,872回」
「はあ……そう、すか」
「ああ、もちろんこれには前提がある。スイープ時計と呼ばれる秒針が連続で動き続ける時計で数えた回数だ。カチカチと動くタイプは実は重なっているように見えて重なっていなくてね。6度のズレが……というのは置いておこう。話が長くなるし、逸れてしまうから。とにかく常に動いている秒針であることを前提とした」
「なる、ほど?」
「もし人生80年だとして、その数はおおよそ83,836,968回に上る。あ、うるう年をもちろん入れてね」
「……はあ」
「しかしだ。長針、短針、秒針の三本が重なるのは58,438回まで減る」
「……先輩、さっきから何が言いたいんす?」
「重なる回数を多いか少ないかは個人の価値観による。けれども、その回数分くらい巡り合う可能性はある、ということだ」
「はあ」
「つまり、要因が重なればまたいい人に出会うことも起き得るという話さ。……彼女と別れたのは気の毒だがな」
「…………先輩」
「なんだい」
「慰めるならもう少し分かりやすいのがいいっす」
2025/09/24――創作
9/24/2025, 9:12:42 PM