薄墨

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完全に休日だった。
今日は一日中、ダラダラと怠惰を貪っていた。
畳んだ布団を枕に、床に寝転んで。

余暇時間を贅沢に食い潰していた。
読破済の本を流し読みして、読み潰した漫画をなんとなく捲って、視聴済の動画を視聴して、たまに気を引くおすすめ動画があればそれを開く。
脳を使う気なんて微塵もなかった。

今日の用事は、数時間前に行った病院くらい。
微熱と軽い頭痛。それから軽い食あたり。
動けないほどではないけれど、動く気はしない。そんな体調不良。
一応、内科にかかって薬はもらって、後はもう何をする気もない。
布団にくるまって眠り込むやる気も深刻さもないけど、学校に行ける気はしない。
だから欠席連絡を入れて、とりあえず体力を使わずにゴロゴロすることにしたのだった。

ぐずぐすの体調管理の一日。ダメダメだけど、忙しい毎日にふと恋しくなるそんな一日。
今日はそういう日になるはずだった。

突然の君の訪問。
間の悪いことにそれは今日だった。

君は元気で強い人間。
誰よりも努力をして、誰よりもエネルギッシュで、誰よりも正しい、普通…いや、努力の才能に恵まれた人間。

君がインターホン越しに用件を告げた時、正直、気持ちが落ち込んだ。
君に何が分かるだろうか。
今日、ここで君と会って休みの理由を正直に話したとして、幻滅されてズル休みと見做されて、最悪、噂になって…そんなことになるのがオチだろって。

君は、学校でも人生でも一番の友達だった。
人としての出来は全然違うけど、君が眩しかったし、君に憧れていたし、ずっと仲の良い友達でいたかった。

だから、絶望した。
ここで友情は終わってしまうんだって。
今まで隠してきた、怠惰を極めた本性に呆れられて、疎遠になるんだって。

そんな葛藤を知ってか知らずか、君は家にやってきた。
とりあえず、迎え入れる。
麦茶を出す。
向かい側に座る。

くらくらする。
なんだか頭痛が痛い。酷くなってきた気がする。
緊張からか、心臓がすごく嫌な音を立てている。
君の顔をまともに見れない。

いつも通り、明るく笑って、君がプリントを差し出す。
夕日が窓から差し込んでいる。
君の次の言葉が怖い。

君が麦茶を一口含む。
喉を湿らせて、それから何か言おうとする。
顔を上げられない。
身体が熱い。
頭痛い。お腹も痛くなってきた気がする。

君が血相を変える。
慌てて向かいの席から立ち上がる。
目が霞む。
脂汗と冷や汗が止まらない。
瞼が重い。

君の慌てた顔が見える……



目が覚めた。
布団の上で、君が隣で声を掛けてくれた。
どうやら、緊張と行きすぎたネガティブ思考からか、あの後、倒れてしまったらしい。

上半身を起こす。
目に涙を浮かべ、大袈裟に喜ぶ君を見て、一抹の罪悪感と、胸いっぱいの安堵感が込み上げる。
…ああ、君はよくできた人間で、最高の友だ。……それに比べて僕ときたら……

複雑な気持ちから、ようやく君宛の言葉を絞り出す。
「…ありがとう。君が友達で良かった」

ズル休みスレスレで休んだ日の、突然の君の訪問。
…心臓に悪すぎる。
いつの間にか、外はだいぶ暗さを増していた。

8/28/2024, 2:33:48 PM