とげねこ

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「あっ!コーちゃん!」
三区間ほど離れた距離からぶんぶんと両手を振る、いつもと変わらない夜会礼装の双子の姉-当然、弟も横にいる-を認めて、コーザは辟易した。
ノストラが攫われ、意気揚揚と目的地に向かうところで、説教婆や戦闘狂いと並んで見たくない顔ぶれだった。
遠回りでも迂回するかと路地へ爪先を向け-ようとして、実際したはずだが、『できていない』

「コーちゃん、無視するなよ。幼馴染だろ?」

円筒状で頂上が平たく、両のつばが反った形状の帽子を被り、姉と同様、顔の下半分を防毒防塵の仮面で覆った男が、いつの間にかコーザの目の前に立ち、籠った声をかけた。
「この間のぬいぐるみ、気に入ってくれた?突然誰かから贈られてきて、びっくりしたんだけど、コーちゃんぬいぐるみ好きだったなって思い出して、直接持っていったの!」
丸みを帯びた頂上に、広く優雅なつばをもった帽子を被った女が、にっこりと笑ってコーザの顔を覗き込んでくる。弟もうんうんと頷いている。
人的被害は奇跡的になかったものの、周囲二区画強に甚大な被害を引き起こした、振動で爆発する釘入り爆弾の外側の事を言っているなら、いつもと変わらず、こいつらが如何に狂った姉弟で、自分が如何に常識人かを思い出さずにはいられなかった。
ちなみにコーザがぬいぐるみを好きだった事も、誰かにそう言った事も一度も無い事は、間違いない。

4/16/2024, 4:07:34 PM