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梅雨空のターミナルに、偶然にも君はいた。
数年振りに会った君はすっかり大人になっていて、
グレーのスーツ姿がまぶしい。


「久し振り。」


疲れ果てた顔の君からは、喧騒めいた都会の風の
匂いがする。それでも、水面のように静かに揺らぐ瞳は、泣きたくなるほどに10代の頃のままだ。

君の瞳は、僕がついに触れることのできなかった
何かにまで届くみたいに、いつも固くてまっすぐな光に充ちている。

夢を切り捨て、東京に行くと僕に告げたときも、
君は同じ瞳をしていた。僕は何も言わなかった。
言えなかった。

それから高校を卒業して以来、君と会うことはなかったのだ。

それでも、綻んだ思い出を繋ぎあわせるように
ひと言、ふた言と交わしていくうちに、蒼白い君の表情がほどけていく感触がした。


「僕は変わらないよ。いつまでも子どもじみた夢ばかりみて、君のような大人にはなれなかった。」


自嘲気味に笑う僕の目をみて
君も初めて、さみしげに微笑む。


「羨ましいやつだよ。」


ああ、君のその瞳だけは、あの頃と同じ質量を感じさせられるというのに。

今、僕には同じ夢を追いかける仲間がいる。かつては君とみた、愚かで若い夢を。恋人もできた。

それなのに、胸の片隅には、君のいた熱の痕が今も燻り続けている。

その熱をさらけだしてしまうには、あまりにも時は経ってしまった。若く青い日々は刻々と去りゆく。

僕たちの道は、たがえたのだ。


「じゃあ。」


君はいなくなる。灰色の人混みに、君の背中はたちまち溶け込んでいってしまう。

僕が僕を生きているように、君も君を生きていくんだろう。これからも、空しいほどに。

夏の雨はやみ、時刻は6時になろうとしていた。


『友情』

7/24/2023, 12:51:53 PM