【そして、】
海沿いの小さな駐車場。
潮の匂いが漂い、波の音が車体をくすぐる。
2人は古びた車の後ろに腰を下ろし、カップ麺の湯気をぼんやり眺めていた。
「結局、目的地ってどこやったっけ。」
「しらん。気が向いたほうに行けばええやろ。」
そんな無計画さは、昔から何ひとつとして変わっていない。
昼間は道に迷い、ガソリンスタンドで笑われ、知らない町でソフトクリームを食べた。
くだらない出来事の連続なのに、なぜか胸の奥が軽い。
夕日が沈み、波がゆっくりと赤く染まる。
「なあ、次はもっと遠いとこ行こうや。」
「ならお前が運転しろよ。」
「いややわ。お前の車やろ。」
「うるさいわ、助手席のくせに偉そうに言うな。」
笑い声が風に乗って広がっていく。
夜の気配が近づいても、話は途切れない。
どこへ向かうのかもわからないまま、それで十分だと思えた。
空の端に、一番星が瞬く。
ふたりの旅は、まだ始まったばかりだった。
10/30/2025, 1:13:45 PM