かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某私立図書館には、
おでんがとっても美味しい食堂が併設された飲食スペースがありまして、
そこの店主はそれはそれは、もう、それは昔々からの呑んべぇでありました。

食堂の厨房の奥の奥に、店主が勝手にこしらえた、秘密の仕込み場がありまして、
そこでは店主が大好きな日本酒たちが、自分の出番を今か今かと待っておりました。

ところでそんな酒蔵の手前側には
あらゆる酒をザブザブ飲み干してきた店主が
日本の果実酒・梅酒の仕込み手順を応用して
あんなお酒、こんなお酒を実験として、だいたい1年を目安に仕込んでおる区画がありまして。

その日はまさしく、一年前に仕込んだお酒のいくつかが、期限たる365日目を迎えまして、
そして、「一年後」の開封日を迎えたのでした。

「どれどれ。今回の酒のあんばいは、どうかな」
去年の今ごろに、一年後の味わいと芳香を想像して仕込んだ酒樽が、横倒しに5個並んでいます。
事前に栓を開いて蛇口を付けておいたので、
店主はお気に入りのコップを出して、キッ、キッ。
1個ずつ、樽の中身を味見します。

「スパイス梅酒は、丁子が多かったかな?」
まずは梅をホワイトリカーではなく、20度の日本酒の原酒でもって仕込んだ、スパイス梅酒です。
丁子(クローブ)とカルダモンと少しのショウガをポンポンと、突っ込んで寝かせて一年後。
爽やかながら、スパイスの甘い香りが残る、不思議な梅酒になりました。

「コーヒー酒は焼酎以外の酒と合わせても面白い」
次は焙煎して少し経ってしまったコーヒー豆と、度数を高めた芋焼酎で仕込んだコーヒー酒。
店主はコーヒーよりお酒、お茶よりお酒、何よりお酒の店主でしたが、
図書館を管理しておる組織、世界線管理局の法務部の、カフェインジャンキーな執行課局員が、
対価は支払うのでどうしてもと、実験をお願いしておったのでした。

とはいえこの法務部局員
ぶっちゃけコーヒーはどちらかというと
ミルクか砂糖かの王道くらいしかあまりトッピングを好まないスタンダードタイプ。
はてさてどういう風の吹き回しやら。

「むっ! これは、なかなか良いぞ」
3個目は梅酒ならぬミカン酒。
果肉だけでなく、オレンジピールも一緒に丸ごと、山椒の実と葉っぱも合わせて、
そして、辛口の高度数日本酒で仕込んで一年後。
キンとヒリつくアルコールの辛さに、山椒とオレンジピールの変化球が、面白いお酒になりました。

「どれどれ。あと2個、どうなったかな」

キッ、キッ。 キッ、キッ。
酒樽の蛇口を開けて1杯ずつ、一年前に仕込んだ実験成果が、呑んべぇ店主の舌と喉を楽しませます。
「それにしても、スパイス梅酒はどうして花の香りになったんだ?」
もう1杯、いやもう1杯、更に2杯。
呑んべぇ店主は「一年後」の成果を評価するために、ちびちび、ちびちび、何度も味見して、
いつの間にか酒のつまみなど、作り始めてしまうのでした。

5/14/2026, 7:45:34 AM