【特別な夜】
生暖かい熱風が豪華絢爛な部屋の中にぬるりと入ってくる。
此処はルラビア国。
熱帯の気候を有するこの国には、大変優れた容姿を持つ王子がいた。
彼の名はルルス。
褐色気味の肌に、白い頭髪。
情熱が灯った赤い瞳に、尖った八重歯。
彼を好く女は数多くおり、それは家柄に関係なく彼は魅了的だったからである。
ーー
『うん!綺麗だ!』
彼の名はルルス。
改めて紹介すると、この国、ルラビア国の第一王子。
彼は今、、城から抜け出し海を見ていた。
熱帯地域であるルラビア国は水が必須。
海は西の海岸にしかなく、そこではいろいろな海産物がとれる。
『よっと、、そろそろ城に戻らないと、怒られるかな。』
彼が恐れているのは、おそらく執事長のルカエスのことだ。
彼は厳粛かつ王に忠実な人間で、ルールは絶対に守るのだ。
『よし。謁見だと嘘を吐けばいいか。』
立ち上がり、戻ろうと足を向けたら、、
バシャンッ!
後方で水音が聞こえた。
『ん?』
振り返ると色白で青い髪をした綺麗な青年が、浅い浜辺をパシャパシャと歩いていた。
『、、、』
王子は、友達を見つけたとでもいうような顔をし、ニッコリ笑いながら青年に近づいた。
『よ!俺ルルス!お前の名は?』
青年は凛とした態度で答えた。
『、、ブラオ。』
これが、青年ブラオと王子ルルスの出会いだった。
ルルスはしばしば城から抜け出し、足蹴よくブラオの元へ通った。
ブラオは無表情で何も考えてなさそうな目をしているが、王子という立場であるルルスにとって、それは心地よかった。
『俺、よく言われる。役立たずって。』
いつしか、人生相談もする仲になった。
『そうか?そんなことねえと思うよ?だってほら!ブラオはとっても綺麗な目の色をしてる。俺の心を楽しくしてくれる色だ!役に立ってるぞ!』
ルルスはパーソナルスペースが狭い。
今だってブラオの頬に手を滑らせ、目の周りに指を這わせている。
くすぐったいのか、ブラオは目を細めた。
ブラオの目は、とても鮮やかなオレンジだ。
夕日の色で、自然の色より綺麗なオレンジ。
ルルスはブラオの目の色が好きだった。
『ブラオ。俺、お前のこと好きみてえだ!』
『は、、?そう、なの?』
珍しくブラオは表情を崩した。
『ああ!好きだ!』
ブラオはルルスの笑みにつられ、少し微笑んだ。
『、、俺も。』
2人の思いは、通じ合った。
ーー
ルルスは今日もブラオの元へ行くが、ブラオは来ていなかった。
ずっとルルスは待った。
夕日が沈むまで。
でも、ブラオは来なかった。
ーー
ヒュウゥ、、
風が吹く。
今日は一段と蒸し暑い。
ルルスは眠れず、寝返りを打つ。
ブラオに会えなかったからか、それともこの暑さのせいか。
『はー、、眠れねぇ。』
とはいっても、三日月がちょうど真上に来た時にはルルスは深い眠りについていた。
カタン、
物音にルルスは目を開く。
微睡の中、1人の影がルルスに馬乗りになっている。
『は、、?誰?』
その影はビクッと驚き、ルルスの口を塞いだ。
革手袋の特有の匂いがし、ルルスは顔を顰める。
月明かりが部屋を照らす。
影の顔も現れる。
(え、、?ブラオ?)
ルルスは目を見張った。
暗闇の中、武装した影はブラオだったのだから。
『、、ごめん。ルルス。あの日、お前の前に現れたのも、わざと。家族が3人いて、妹がいるのも、嘘。ルルス。俺もお前が好きだと言ったのも、本当は嘘だ。みんなから役立たずだと言われるのも、嘘。全部全部、嘘だ。』
月明かりに照らされたブラオの瞳は、濁ったオレンジだった。
『今夜は、特別な夜だな。一国の王子であるお前の死を、俺は悲しむよ。これからも。』
ブラオはルルスから手を離し、唖然としているルルスに口付けをした。
『おやすみ。ルルス。お前にとって、特別な夜になったな。俺にとっても。』
ブラオはルルスの胸を貫いた。
1/21/2024, 10:59:38 AM