風鈴の音。
その音を聞くと、あのひと夏のことを思い出す。
親に連れられて行った祖父母の家。
縁側に走り込んできた輝く瞳の少年。
手を引かれて誰にも言わずに家を抜け出した。
彼は私に色んなものを見せてくれた。
誰にも教えていない抜け道、
パッと見では分からない秘密基地、
綺麗な花畑、
輝くシーグラス。
「…音は記憶を引き出すよね…」
あの日家に戻った私は、両親祖父母に大いに心配され大いに怒られた。
…彼のことは、誰にも言わなかった。
あの日からもう何年も経って、大人になって、彼の顔も声も朧気になった。
けれど、あの瞳だけがいつまでも記憶に焼き付いていて。
…そう、そんな瞳。
「…○○ちゃん?」
風鈴の音、記憶だけじゃなくてあなたも呼んだのね。
7/12/2025, 4:26:03 PM