黄身

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貴方のつくる音が好きだった。あなたの思想が、世界が、脳みそが。貴方が存在しているというだけで、救われるような気持ちだった。貴方のつくる世界が、どれだけ小さくともこの世界のどこかに存在してくれている。それだけでよかった。
貴方は、私がこの星で呼吸を重ねる理由だった。
貴方は、いつだって完璧だった。素晴らしい音を、正解より正解の音を、きたないせかいに美しく産みおとしていた。

ステージが終わると貴方は、やさしく、はかなく、つよく、うつくしく咲き誇った音をいくつか置いて逃げるようにそこを引き上げてしまう。あぁ会いたい。つたえたい。貴方が、貴方の音が、美しかったこと。

楽屋におはなと、プレゼントと、貴方への言葉を抱えて向かうのに、貴方の前に立ってみれば、貴方のために紡いだことばはいくらポケットをまさぐっても出てこなくって。貴方が私を見るじんわりとした焦げ茶色の線がやけに、痛かった。
だらだらとうすっぺらい言葉を並べたてた小さな私に、貴方はことばをかけてはくれないらしかった。

それ、じゃあ。次の公演も、楽しみにしてますね、
貴方の音を、あいしていますから。



泥棒さんはわらって言った。

「へぇ、気づけないんだ 」



No.10【君の奏でる音楽】

8/12/2024, 12:42:22 PM