高木いずみ

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【終点】

「あなたが動けば、景色は変わる。」

だんだんと景色がゆっくり流れていくのを、視界の端に捉えながら、旅行会社の広告のキャッチコピーが、自然と頭に入ってくる。

退屈な人生が突然変わる事を期待して、ただ毎日会社に行って帰るだけの人生を過ごしている健二は、今も電車に揺られている。




"突然女性の叫び声とともに、数人の乗客が健二のいる車両に流れ込んできた。

そちらに視線を向けると、刃物らしきものをも持った男性とその男性に捕らえられている女性が見えた。

健二はそんな展開を期待していたのだが、実際に起きると不安と緊張を感じながら、ただただ拳を膝の上で握って下にうつむくだけで動けずにいた。

そんな自分に嫌悪感を感じ、何か出来ないかと顔を上げると
"あなたが動けば、景色は変わる"
の文字がくっきりと見えた。

(そうだよな。動かないと何も変わらないよな。)

そう思った瞬間、身体は勝手に動いていた。

気付けば、目の前には、刃物を持った男。男は叫びながら健二に向かって刃物を突き刺してくる。健二はそれを左へ受け流すと同時に刃物を叩き落とした。健二のまさかの反撃に驚いてる男の後ろに回り、腕を捻りあげる。先程とは違った叫び声を聞きながら、健二は女性に"もう大丈夫ですよ"と声を掛け、乗客から拍手を受けていた。"



「終点。お忘れ物の無いように。」
アナウンスと共に、健二の妄想は終わる。

今日も退屈な1日がやっと終わる。

8/11/2024, 12:40:36 AM