普段より浮わつきを見せる街は甘い香りを漂わせていた。この日のために気合いの入った人もいれば逆に、おどおどとして周囲から勇気付けられる人も目立つ。
ある人にとってはこれが勝負の日。またある人にとっては感謝を伝える日。とある国だと女性がチョコレートを渡す日らしいが、ここではそんな決まりはない。誰だって自由に渡したい物を相手に贈れるんだ。
家族たちには日持ちするお菓子とカードを付けてこの日に間に合うように送った。きっと弟や妹たちのおやつタイムに出されてニコニコと食べてくれるはず。お返しの手紙が届くのが楽しみだ。
君の髪に映えそうな髪飾りを贈り物に、部屋を彩る花を少し。仕事が入らなかったらゆっくり君と過ごせたのに。時刻は夕暮れ、甘い香りは朝より薄くなっていた。君のもとに着く頃には辺りは暗く、街もひっそり静かになる。
「遅いと食べて寝ちゃうからね」
冗談めかしていたが寂しそうな顔までは隠せていなかった。
「『待ってて』くれると嬉しいな」
こんなこと言わなくても君は『待ってて』くれると知っているけど、わざと声にだして。
さて、急ごうか。
一緒に過ごせる残りの時間をこれ以上減らす訳にはいかない。荷物を抱えて走り出した。
君が作ってくれたチョコケーキ(『伝えたい』想い)を俺だって楽しみにしてるんだ。
(昨日のお題と繋げてみました。)
2/13/2023, 10:35:21 PM