新人の兵士が、はじめましてと女王さまにあいさつしたら、さようならと返されました。
兵士は困った顔をしてたずねました。
「どうして、すぐにお別れのあいさつをするのですか」
女王さまは呆れた顔をしました。そんなことも知らないのかと肩をすくめました。
「今朝起きて、あなたは夢から目を覚ましましたか。朝ごはんを覚えていますか。ここまで来た道のりを眺めましたか。わたくしの顔を見てあいさつをしましたか」
兵士は、すべてに「はい」と適当に答えました。彼の瞳は、かすんだ青い光でいっぱいでした。ずっとチカチカと切れかかった電球のように瞬いています。
兵士の瞳の中には、女王さまはいません。輝く朝日も美味しいご飯も道端のきれいな花々も、彼はまったく見えていませんでした。今も彼は青い光に夢中です。
「誰も見えないさん。わたくしはあなたとお別れをしたいです」
「なぜですか、いじわるな女王さま」
「その青い光に毒された瞳に、わたくしまでも映らないなら、大いなる時間もあなたは見えていないでしょう。わたくしは、時間も見えないあなたと一緒にいたくありません」
「どうしたら、女王さまと一緒にいられるのでしょうか」
女王さまは、真っ直ぐに見つめて言いました。
「全てのものとしっかりと目を合わせて、もう一度、はじめましてとあいさつなさい。そのあいさつは、相手の時間を所有する者にしか言えませんよ」
兵士はまた困りました。時間なんて見えないから、探すことができません。女王さまに助けてと求めても、ただ笑われるだけでした。
「その青い光から目覚めなさい。あなたの本当の瞳を輝かせて、相手と向き合いましょう」
女王さまは兵士の前に立ちました。堂々と胸を張ります。
「そして、相手の時間をよく聞きなさい。呼吸や鼓動、たましいから相手の時間が聞こえてくるでしょう」
兵士を囲むように腕を広げました。女王さまのかんばせは、神代から輝く太陽のように美しいです。
「わたくしの瞳にあなたの真実なる瞳を照らして、わたくしの時間を所有してご覧なさい。きっと、あなたのものになりますよ。さあ、言いなさい」
(250401 はじめまして)
4/1/2025, 12:55:58 PM