上原健介

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3年ぶりに開催された町内夏祭りは、かつてないほどの盛り上がりを見せていた。
人の波に揉まれながら、僕は、道行く人々の顔をひとりずつ見つめる。みんな、マスクなんてしていない。そして、どの顔も笑っている。日頃のストレスを全て発散するかのように、傍若無人に叫んでる人もいる。全て、普段の日常からは考えられない光景だった。祭りは、人々に一夜だけの魔力を与える。
その魔力によって、祭りに参加する全ての人々が意味のある存在になれる。例え僕のように、だれにも知られることなく、そこに存在するだけでも、祭りの士気を上げることができる。人は多い方がいい、それが祭りなのだ。
[花火が上がるぞー!!]誰かがそう叫んだのを合図に、
夜空に大きな花が咲いた。それは、とても美しいものだった。しかし、すぐに弾けて、藍色の闇の中へと消えていく。この街も、明日にはいつもの殺伐とした街に戻ってしまうのだろう。ゴミが散乱した風景と、それを黙々と拾う人たちの姿が容易に思い浮かぶ。だけど、今だけはこ
の奇蹟のような瞬間を精一杯楽しもうと思った。
またひとつ、花火が消えるまでずっと。

7/28/2023, 12:15:41 PM