もう二度と
私の祖父母の家は、山に囲まれた田舎にあった。祖父母は農家だったから母はよく手伝いに行っていて、私が子供の頃は、夏休みになると毎日の様にそれについて行った。小さな山を一つ超えた先にあったから、何処となく都会の喧騒から切り離された様な空気感があるのを今となっては感じている。
私には妹がいて、よく二人で遊んだ。ビニールハウスの影に秘密基地!と称して木の棒やらを組み立てる様な、典型的な子供の遊びもしていたのを今でも憶えている。庭にビニールプールを作ってもらったり、近くの小川に小魚を釣りに行ったり、親戚が集まった時は夜に皆で花火をやったりもした。たまに仕事を手伝ってみたりして、休憩時間に皆でアイスを食べた。スイカ割りもした。手持ち無沙汰に、扇風機をかけてテレビを見る、その時間さえ好きだった。
今でもたまに祖父母の家を訪れる。相変わらず祖父母は元気だし、庭も畑も何も変わらない。それでも、こんなだったか、とふと思う。もう少し木の葉の色が鮮やかだったのではないかと思った。もう少し空気は透き通っていたのではないかと思った。あの頃と何も変わらないけれど、自分だけが変わってしまった様な気がした。
もう二度と子供の頃には戻れはしなくて、記憶の中にはあるけれど、何せ子供だったからあまり憶えてもいなくて、少し霞がかったようにぼんやりとしている。
よく歩いた散歩道をまた、歩いてみた。あの頃はわくわくしながら歩いていたはずなのに、今では何故か寂しさを感じた。
3/24/2025, 2:05:44 PM