物語:残火の誓い
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過去編:風の誓い
第一節:出会い
旧都の外れ、風の訓練場。
剣の音が響く中、少年・蒼牙は倒れていた。
手を差し伸べたのは烈真。
「立てよ。風は止まらねぇ。お前が止まったら、置いてかれるぞ。」
それが、ふたりの始まりだった。
同じ師のもとで剣を学び、拳を磨き、夜には灯籠を灯して語り合った。
「いつか、俺たちでこの世界を守るんだ」
「風みたいに、誰にも縛られず、でも誰かを包めるように」
それが、ふたりの“風の誓い”。
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第二節:誓いの灯
ある夜、師が灯籠を渡す。
「この灯が消える時、お前たちの誓いが試される」
烈真は灯籠に刻んだ。
「永遠に、風のように」
蒼牙は黙っていた。
「…“永遠”って、止まってる気がする。俺は、燃えて消えても、残るものがいい」
烈真は笑った。
「じゃあ、お前は“残火”だな。俺は“風”で、お前を運ぶ」
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第三節:分岐
戦乱が始まり、師が命を落とす。
烈真は秩序の側へ。
蒼牙は反旗を翻す。
「お前は誓いを捨てるのか」
「違う。誓いを“燃やして”進むんだ」
拳が交わる前、ふたりの道は分かれた。
それでも、灯籠の残火は、どこかでまだ揺れていた。
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現在編:風を裂く者
戦火に焼かれた旧都の廃墟。
神殿跡に蒼牙が立つ。
そこに待つ烈真。かつての盟友、今は敵。
「来たか、蒼牙」
「お前がここを選ぶと思ってた」
「…あの頃、俺たちは“永遠”を信じてた。
でも今なら言える。永遠なんて、ないけれど——
それでも、お前を斬るのは、俺の役目だ」
剣が抜かれ、風が裂ける。
戦いが始まる。火花が散り、拳が唸る。
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中盤編:灰の中の叫び
烈真の拳が蒼牙の頬を裂く。
蒼牙の剣が烈真の肩を裂く。
血が飛び、瓦礫が砕ける。
「俺は、あの日の誓いを守ってきた」
「だから、お前は止まったんだ」
拳と剣が交差するたびに、過去が剥がれ落ちる。
訓練場の笑い声。
夜の語り合い。
師の死。
そして、分岐した道。
「…永遠なんて、ないけれど——
お前との誓いは、俺の中で生き続けてる」
烈真は笑う。
「なら、叩き込め。お前の“今”で、俺の“永遠”を」
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最終章:拳で語る
烈真が剣を地面に叩きつける。
「刃じゃ足りねぇ。お前の魂は、拳でしか届かねぇ」
蒼牙も剣を投げ捨てる。
風が二人の武器を巻き上げ、空へと消していく。
拳が唸る。
烈真の右拳が蒼牙の腹に沈み、蒼牙の左拳が烈真の顎を跳ね上げる。
「俺は、誓いを守ってきた」
「俺は、誓いを燃やした」
拳と拳、膝と肘、肩と頭——すべてが武器になる。
血まみれで立ち続けるふたり。
息は荒く、視界は揺れている。
それでも、拳は止まらない。
烈真が膝をつく。
蒼牙が拳を握りしめる。
「…永遠なんて、ないけれど——
お前との誓いは、俺の拳に刻まれてる」
烈真は笑う。
「なら、叩き込め。お前の“今”で、俺の“永遠”を」
拳が振り下ろされる。
風が止まり、世界が静かになる。
そして——
烈真は倒れ、蒼牙は膝をつく。
拳だけが語った、ふたりの物語。
刃では届かない痛みと、拳でしか伝えられない絆。
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終章:風の残火
蒼牙は立ち上がり、空を見上げる。
「永遠なんて、ないけれど——
お前との戦いは、俺の魂に刻まれた」
風が吹く。
灯籠の残骸が静かに揺れる。
かつて交わした誓いは、灰になっても、心に残っていた。
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9/28/2025, 3:00:36 PM