光合成

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『夏』

今から三年前、高校二年生のときのこと。

潮風が柔らかい黒髪をさらい、じっとりと汗をかいたうなじが露になる。
こめかみを伝う汗をバレないように横目でそっと見つめる。頬の輪郭を撫で、首までゆっくりと流れるそれに浮かぶ感情をぐっと抑える。
溶けたアイスクリームが君の手に流れる。雫となって垂れる前に君の舌でそっと舐め取られる。
生唾を飲み込んで僕の喉仏が動くのがわかった。
「美味しいね」
そう言って笑う君は、まるで向日葵のようで夏が良く似合っていた。

君は海が好きだと言っていた。寄せる波の音も潮風の匂いも、陽の光に反射して輝く水平線が好きだった。

スカートの裾をあげて裸足になり、そっと波に足を踏み入れた君は冷たいと言いながら気持ちよさそうに目を閉じた。
僕もそれを真似てズボンを捲り、靴下を脱いで隣に立つ。
足を撫でる波が心地よくて、君の隣に立っていられるこの時間がずっと続いて欲しかった。

その夜に君は姿を消した。

あまりにも突然だった。
あの日、僕らは僕と君の家の分かれ道でいつものようにまたねって言い合ったのに。
いつもと変わらない笑顔で、確かにまたねって。
それじゃあ、どうして?
どうして君はどこにもいないの?

君はどこに行ってしまったんだろうか。
あの水平線に飲み込まれてしまったのだろうか。
それならば、どうか、どうか僕も連れて行って欲しかった。

君の消えた夏がまたやってくる。
僕はまだ、あの日に取り憑かれたままだ。


2025.07.14
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7/14/2025, 12:11:03 PM