時は四月。
世界に春が訪れ、世界に緑に溢れ花が咲き乱れる。
それらを目当てに虫や蝶たちがやってくる。
鳥も恋の季節で、歌声で異性にアピール。
まさに春爛漫といった風景だ。
あらゆる生命が活動するこの季節。
春の陽気に誘われてクマが巣穴から出てくるように、桜の木の下から死体も這い出てくる季節でもある。
そう死体である。
皆さんは一度は聞いたことがあるだろう。
『桜の木の下には死体が埋まっている』と……
あまり知られていないが、本当に埋まっているのだ。
信じられていないのも当然で、その死体と言うのは普通の人間と見た目がそっくりで、まず見分けがつかない。
這い出てくる現場を見なければ、死体だと気づかないであろう。
ではなぜ『春になると出てくるのか?』。
それは簡単だ。
花見の宴会に参加するためである。
みなさんも花見会場に行ったとき、妙に人が多いなと思ったことは無いだろうか?
どこにこんなに人間がいたのだろうかと。
それは這い出てきた死体が混じっているからだ。
死体たちは、普通の人間に混ざって花見の料理に舌鼓《したつづみ》を打っているのである。
いくらなんでも知らない人間が参加していれば、すぐにでも気づくと思われるかもしれない。
だがそこは花見会場……
全員とは言わないが、酔っぱらって判断力が低下している人間も多い。
死体は入念に人間たちを観察し、大いに盛り上がっている宴会を選んで混じるので、まず気づかれる事はない。
宴会に参加した後は料理を食べて、頃合いを見てその場から離れる。
このことからも分かる通り、死体は人間を襲わない。
人間を襲うよりも、盗み食いする方がリスクが低いからだ。
もしかしたら花見会場で、うずくまって動かない人を見たことがあるかもしれない。
それも死体だ。
実は死体にも様々な個体がいて、宴会に混じるのが下手な個体がいる。
そうして何も食べれなかった個体がお腹が減って動けなくなった、と言うのが真相なのだ。
こうして桜の木の下に埋まっていた死体はエネルギーを補給するのだが、桜の花が見ごろなのは短い……
桜も散って花見が行われなくなったら、死体はどうするのか?
また桜の下に埋まっていくのである。
そう、死体は花見のシーズンだけ活動する存在なのだ。
埋まった後は、夏・秋・冬を土の中で過ごす。
そして季節が廻り、花見のシーズンが来れば、また土の中から出てきて花見客の料理を失敬する。
こうしてみると、死体は何の役にも立って無いように思えるだろう。
だが死体は埋まっている間に、桜の成長を促し花を綺麗に発色させる特殊な物質を生成する。
死体は桜の成長に貢献しているのだ。
そうして綺麗に咲いた桜を、人間が見て楽しむ。
これだけをとっても自然の複雑さが感じられるだろう。
人間は桜を見て花見を行い、桜は死体によって大きく成長し、死体は人間の料理を食べて命を長らえさせる。
桜と死体と人間は、お互いに欠かすことが出来ない、いわゆる共生関係なのだ!
くしくも今は花見シーズン。
これを読んでいるあなたも花見に行くことがあるかもしれない。
その時は自然の雄大さを感じながら、死体と一緒に桜を楽しんでいただければ幸いである。
4/11/2024, 9:50:07 AM