NISHIMOTO

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遠目に見ても笑えてしまうほどだったけど、近くで見るとたった一人で子供達に囲まれているのがさらに面白かった。
「笑ってないで助けてくれませんか」
「いやぁ申し訳ない。しかし、珍しいね」
彼の太ももほどしかない背丈が右に左に、たまにはぐるぐると周囲を駆け回っている。
子供たちとの付き合いも長くてお手製のおもちゃまで授けていたのに、妙な、今まで見たことない騒ぎだ。喜びの興奮が場を包んでいた。
中心にいる彼はというと、腰を下ろすタイミングをはかりつつその長身を変に屈めたままだ。
賑やかに暖かい世界がそこにあった。彼は子供好きで、優しいのだ。
「素敵なオオカミさん、今日はどうしてこんなことに?」
「夜空を見る会を開こうかと伝えれば、このように」
嬉しくも困り顔で、こんなに喜ばれるとは、と続けてこぼしたのを子供たちが先に拾い上げる。
「そりゃあね!」
「だってさ、夜更かししてもいいってことじゃん」
「ホットミルクは一杯まで?お菓子は?毛布は?」
口々にわあわあと言葉が踊り舞う。静まらないのでやがて大人たちは座るのを諦めた。
低い背を押して流れるようにいつもの広場へ向かいつつ、小さな人間たちが袖やらを引っ張るのに合わせて耳を傾ける。
「ねえ、ねえ、夜空から星が落ちたら夢が叶うって本当?」
「シスターの本に書いてあるって言ってたもん。嘘なわけないよ」
丘の上が見えてきた頃に姉妹が両脇から追い越し、追い越され、楽しみに胸を膨らませて行く。春の風のように駆け抜けて。
自分はと言うと、いったん一番年下の子の柔らかな手のひらをズボンから開き離す。その足ではつらい坂なので抱き上げるのだ。ミニサイズの丸い頭が近くなってこどもの匂いがする。
「夢が叶うって、それはどうかなぁ」
姉妹はとっくに丘と空の境で手を振っている。届きもしないのに呟いてしまうのは、背中が向こうに見える彼のことを考えていたせいだ。
両腕に年長の子を抱いてもびくともしない姿に、よかったねェとこっそり微笑んだ。
『子供達が幸せに生きられる世界にしたい』なんて夢は大きすぎて、星でも叶えられそうにないね。
マァでも、君は叶えちゃうんだろう。それと、そう、あとは、子供じゃなくなったこの身も幸せにしてくれないかなァ、と漂う木々の匂いに欲を溶かした。

3/31/2023, 1:07:52 PM