G14(3日に一度更新)

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123.『新年』『新年の抱負』『日の出』


「やばいやばいやばいやばい」
 新年早々、私は絶体絶命のピンチに陥っていた。
 視線の先にあるのは体重計のディスプレイ。
 そこには目をそらしたくなるほど、おぞましい数字が表示されていた。

「確かに食っちゃ寝で何もしていなかったが……
 まさかここまでとは!」
 年末年始の実家への帰省。
 料理が趣味の母親が、腕によりをかけて作った豪華な食事の数々。
 私は当然のようにその料理を平らげ、コタツにこもってスマホいじり。
 夜は用意された暖かい寝床で惰眠を貪る日々。
 太らないわけがなかった。

「どうしよう」
 私は頭を抱えた。
 たしかに腹が出てしまったのはショックだ。
 しかし、それ以上に悩ましい問題があった。

「私、アイドルなのに」 
 普通の人間なら、『頭を抱えるだけ』で済んだかもしれない。
 けれど、地下とはいえ私はアイドル。
 夢を売る商売だ。
 無駄なぜい肉を増やして自分の魅力を落とすなんて、プロ失格である。

 ピンチを打開する方法はただ一つ。
 ダイエットだ。

「走るか……」
 幸いにも、次のライブはまだ先の話。
 単に人気がなくて暇なだけだが、今回ばかりは不人気に救われた。
 ファンを裏切らないよう精進しないと。
 私は時間の許す限り、走り抜くことを決意した。


 ――そして、壮大なプロジェクトが始まった――
   (以下、ダイジェストで多くします)
     BGM:地上の星

   日の出をバックに、海岸線を走る私。
   食後の誘惑、デザートを我慢する私。
   体の線を作るため、筋トレする私。
   カロリーを抑えるため、一日一食で過ごす私。
   脂肪を燃やすため、ジムでトレーニングする私。
   腹が鳴っても、限界まで我慢する私。
   そして限界を超えて倒れる私。
   無茶な減量を母親に怒られる私。
   母親監修の、栄養バランスの取れた食事を摂る私。
   体に力が漲り、トレーニングに精を出す私。
   そして――
   (ダイジェスト終了)


  ――ライブ前日――
   
「仕上がってきたな」
 鏡を前に、私は自分の体を確認していた。
 成果は上々、それどころかダイエット前より、はるかにプロポーションが良くなっている。
 これならファンの皆も満足してくれるに違いない。

「何度見ても素晴らしい肉体だ」
 鏡の中の自分にうっとりしていると、スマホが震えた。

『仕上がっていますか?』
 母親からの短いメッセージ。
 それを見て、思わず口角が上がる。

「当然だ、私を誰だと思っているんだ」
 私は左腕で力こぶを作り、上腕二頭筋が盛り上がった写真を母親に送る。
 これで母親も理解するだろう。
 私の筋肉が、天下を取れるほど仕上がっている事に……

 私はアイドル。
 王道の『カワイイ』ではなく、外道ともいうべき『筋肉』を武器とした、武闘派アイドルだ。

「私としたことが、正月の魔力に油断し、筋力を衰えさせてしまったが……
 だが今の私は無敵!」
 私はポージングをしながら叫ぶ。
「軟弱なアイドルどもを蹴散らしてくれるわ!」
 今年の新年の抱負は既に決まっている。
 私以外の、全てのアイドルに地獄を見せることだ。

「くくく、奴らの怯える顔を見るのが楽しみだ!」
 私は高笑いをしながら、鏡に向かって最恐のポーズを決めるのだった。

1/9/2026, 10:04:38 AM