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#束の間の休息

 その部屋は、建物の奥まった場所にある。
そっと扉を開けると、先客達の意識が一斉にこちらへ向くのが分かる。
私と入れ違いに、男が一人足早に外へ出て行く。
 部屋は狭く薄暗く、空調の音だけが大きく響いていて、性別も年齢も雰囲気もバラバラの者が四人、小さなテーブルを囲んで立っている。
 皆それぞれ宙を見つめ、決して目を合わさず、言葉も交わさない。
 我々は見知らぬ、背徳の同志なのだ。
私を含めここにいる全員が、たった一つの同じ目的のために集っている。
 社会においては嫌悪され、健全な人々を見れば後ろめたさに襲われる、我々は…。

 「おーい、まだ?」
外で待たせていた友人が、扉の隙間から顔を覗かせた。
腕時計を指してるから、もう時間がないらしい。
「ごめんごめん」
 私は慌てて二本目の煙草をもみ消し、愛煙家にとって束の間のオアシスである喫煙ルームを出た。

10/8/2024, 3:03:09 PM