きゅうり

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自分で言うのもなんだが、気難しい性格だと思う。
それに、もともと喋るのが好きな方じゃなく、人とのかかわり合いも、上手い方ではなかった。
その性格の難しさはというと、自分と結婚する・してくれる人間など、現れることはないとまで思うほどだった。

だから、恋愛にも消極的になって、30代になっても恋人の一人もいたことは無かった。そもそも、恋人をつくる気すらもなかった。

でも、時代の流れにはなかなか逆らえず、家庭を持ってやっと一人前だと言われたあの頃に、会社の上司の娘との見合いの場を設けられて、無下に断ることなど私には出来なかった。




――――――見合いの場に出向いて、初対面で、目が合って数秒。

直感的に思った。この人と私は釣り合わないと。

写真で顔は拝見させて貰ってはいたが、写真越しに見る顔よりも幾分か整って見えた。
それに加えて優しげな表情の柔らかさは、言葉を交わす前から彼女の人柄の良さを表しているようだった。
人としての魅力に溢れている方という風にしか、私の目には映らなかった。

そして目が合って、はにかんで笑われても、私は身を強ばらせて会釈することぐらいが精一杯だった。

案の定、話をしてみてもこちらが言葉に詰まってしまって、彼女がいくら話に花を咲かせてくれても、その花を手折るような真似しかできない。

見合いが終わると、後悔と羞恥の気持ちで胸がいっぱいだった。

私にはきっと、似合わない女性だ。

そんな思いに、打ちのめされた。
最初からこの見合いに期待などは一ミリもしていなかったが、あまりにも酷い有様で、自分が惨めに思えた。

そんな恥晒しな見合いが終わって数日後。
数日経っても、私は未だに上司に見合いの返事を出来ずにいる。

そんな私に痺れを切らしてか、出勤してすぐ、件の上司に呼び出された。

話の内容は、断りの返事を伝えるものだろうと見当はついてたのだが、その上司から告げられた言葉は私にとってとても予想外なものだった。




―――――――あれから数十年後、私は今花屋の前に立っている。
数日前から予約した数十本の花束を受け取るために。

今日は、結婚して50年の節目だった。

私には釣り合わぬと諦めようとしていた相手は、50年もの間、気難しい私の隣に立って人生を歩んでくれた。

だから、この日ぐらいはと、彼女の好きな赤い花を用意した。
そして花束には、柄にもなく、それなりの意味を持たせた。
口には決して出せぬようなキザな言葉を。

玄関の戸を開ける。
らしくもなく、緊張で花束を握る手は手汗でしっとりと濡れている。
いつものように妻は、二人の記念日を祝うためキッチンでご馳走を作ってくれているだろう。

靴を揃えて、たたきを上がると、一直線にキッチンへ向かった。
少しでも早く、喜ぶ妻の顔が見たかった。

歳をとっても変わらず花のように可愛らしげに笑ってくれる顔が、早く、見たかった。



――結婚記念日

お題【Iove you】









2/23/2024, 2:39:06 PM