【星空】
このまま何もない黒が続いていくんだと思っていた
それなのに柔らかな風の中から現れたきみが
空だと思っていたものを
僕を囲っていた闇を
思いっきり叩き壊していくもんだから
今までシリアスに構えていたのは何だったのかと
その余りの勢いの良さと笑ってしまうほど
きみが壊してくれた僕の小さな世界を
抜けだしても天は暗いままだった
だけど、その中にぽつりぽつりと微かな光が浮かんでいて
その綺麗さをこれから先もずっと覚えていたいと思った
そんな僕を差し置いてきみは豊かな表情で
この空は僕のもので、好きなように描いて良い
なんて突然に言ってくる
今まで何も持っていなかった僕には大きすぎる代物
だからなにをしたらいいか解らなくて
毎日、来る日も来る日も、
段々と増えていく光をただ体育座りをして見つめていた
それだけで十分で、
零れ落ちてくる光だけでただ満たされていた
ある日そんな安息の場所に雪が降ってきた
雲に隠されていく星たちの
”忘れないで”という声が耳から離れなくて
見違えていく景色に
ちぎられて落ちてくる光の想いに
初めてこの場所で息が詰まっていった
まだ空の光がまばらだったころのあの美しさを瞼の裏に
焼き付いて離さないまま過ごしてしまっていたから
消えてしまう思い出が辛くて
流れ落ちるその光に届かないことがわかっていても
ここに覚えているヒトがいるよと呼びかけてしまう
虹のかかる希望の道をならんで歩く夢を見続けているのは
僕だけになってしまったのかもしれない
だけどあの時した永久の約束は
僕の中でまだ続いているから
あのはじまりのあまりに綺麗に輝く光へ
僕も歩みを進めだした
あの時は手が届かないとあきらめてしまったけど、
出会った時のきみも僕と同じだったとしたら
今度は僕が迎えに行くから
そう決意して見上げた空はいつの間にか雪は降り止んで
満天の星空が作り物のようにまばゆく煌めいていた
2024-07-05
7/5/2024, 2:22:58 PM