→短編・6月のある日の分岐点
高天原3丁目の豆腐屋の角を曲がったところで、太陽と出くわした。
豆腐の入った桶を抱えた太陽は浮かない顔だ。
「どうしたの?」と尋ねる私に、「あのね……」とポツポツと太陽は語りだした。
話をまとめると、太陽は現在ある男性アイドルグループの推し活をしているらしいのだが、担当がグループを卒業してしまったことから、これからの推し活に迷いが生じてしまった、ということだ。
「グループのことはもちろん応援したいんだけど、彼がいないんじゃ盛り上がりに欠けるんだよね」
「グルーブ内で新しい担当作るとか?」
「それはなんかヤだよぉ」
グズグズウジウジ。身をよじる太陽に合わせて桶の豆腐もふらふら揺れた。
よし、喝を入れてやろう!
「太陽なんだからさ、広い心で全体を応援したら? 天空から見守る太陽! どう? 太陽の女神感アップでグループの運気もアップ」
太陽の表情が明るくなり、下向きの顔が徐々に上を向いた。
「それ、最高! あ、来週のライブ、迷ってたけど行こうっと。推し活グッズも一新しなきゃな。百均行ってくる!」
今や太陽は輝きを取り戻し、熱を放出し始めていた。桶を持ったまま走り出しそうな勢いだ。
「豆腐持ってくの!?」
「あげる」と太陽は私に桶を渡し、走り去っていった。貰った豆腐はほとんど湯豆腐になっていた。
あれから1ヶ月ちょっとが経った。太陽の熱は収まることを知らず、増大し続けている。ライブだフェスだと毎日大騒ぎらしい。
連日、記録的な暑さを更新中だ。
もしあの日に、私が太陽を焚き付けなければ、もう少し涼しかったかもしれない。
私は本日3本目のアイスにかぶりついた。
テーマ; 太陽
8/6/2024, 3:45:41 PM