にえ

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お題『こぼれたアイスクリーム』
(今日は一次創作)

 2段アイスクリームを買い、ホクホク笑顔で店を出た。ナッツがたっぷり入ったアイスと、チョコレートの味がとっても濃いアイス。お値段、720円也。私の好みはソルベ系なのに、亡き両親がこよなく愛したフレーバーを選んだ。もしかしたら帰省できなさそうな初盆間近であることのセンチメンタルから来たものかも。私が子供の頃、両親とアイスクリームを買いに行くとダブルなんて許されなかった。必ずカップでシングル。だからこれは、所謂大人買いの一種なのかもしれない。
 コーンにギチギチと収まっている、溶け始めのアイスにピンク色のスプーンを突き立てた。口の中に濃厚なクリームが広がり、私はその甘さに眉を顰めた。この味、濃すぎてブラックコーヒーが欲しくなる!
 そう思った私は辺りを見渡した。視界に入ったのは二軒の喫茶店。でもさすがに飲食物を持ち込んではいけないよなぁ。さらに遠くに目を向ければ、陽炎がゆらめく向こうに白い背高のっぽの筐体が見えた。自動販売機だ!
 とてとて近づきながら、バッグの中の財布を漁る。そして硬貨を投入し、無糖ブラックのボタンを押して出てきた缶を受け取る。そしてここで大いに狼狽えた。
 開けられないのだ、缶を。片手のアイスが邪魔をして、今すぐ飲みたいコーヒーにたどり着けない。飲めないとなると尚更ブラックコーヒーが恋しくなり、なんとかして開けられないだろうかと片手でもがく。ああ、これがペットボトルのコーヒーだったなら、左腋に挟んで右手で開けられただろうに。たった40円ケチっただけでコレである。
 悪戦苦闘していると、缶の上に茶色くて丸い物体がどっかりと落ちてきた。それは苦味に逃げを打つ私を嘲笑うかのようにチョコレートをふんだんにとろけさせていく。左手は溶けたアイスが垂れてきてベトベトだし、缶コーヒーは無茶苦茶だし、最悪だ。近くの公園で手を洗えば、捻った蛇口からはお湯が出てきた。
 思わず、深い深いため息がこぼれる。これは親不孝にも初盆に家にいない私への当てつけだろうか。いや、そんなばかな。

8/11/2025, 11:46:17 AM