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刹那


私は神を信じている。

私は、周りと比べたらそれはもう熱心な〈信者〉だ。毎日〈教会〉に行って、〈教祖様〉の話を聞くことが大好きなのだ。

他の人はなぜ〈教祖様〉を侮辱するのだろうか…?我々はまだ未熟であり、それを正してくれる素敵なお方ではないのか。別に咎めたりなどはしないが。ただ私が、その哀れな人達とあまり関わらなければいいだけである。私は、私の好きな人達といることができればそれでいいと思っていた。

そう、あれはバレンタインの4日前だった。せっかくのバレンタインなのだ。親友に感謝の気持ちをしっかり伝えたい。だからあの日は、あの日だけは親友と〈教会〉に残らずに先に帰宅してしまったのだ。


「話したいことがあります。この後1人で私のところに来てください。」
「…は、はい!」
〈教祖様〉から呼び出された、バレンタイン3日前。こんなことはじめてだった。いそいで〈教会〉の一室に向かう。私なんかの話を聞いてくれる喜びで、私の心は溢れていた。
「失礼します…!」
「えぇ、どうぞ。お入りください。」
「…えっと〈教祖様〉、お話とはなんでしょうか?」
──────────────

結論から言うと、私は冤罪をかけられた。

どうやら〈教祖様〉は、その他の馬鹿な〈信者〉から言われたことを全て信じ込んでしまったらしい。私がそんな生産性のない、馬鹿げたことをするわけないのだが。

「自分の言った言葉に責任を持ちなさい。」
私はそんなこと言ってない

「貴方だから、親友は何も話してくれなかったのですよ。」
親友はそんなふうに思ってないはず

「何人もの〈信者〉が口を揃えて貴方だと言ったのですよ。」
私の言葉は聞いて下さらないのですか

「そろそろ認めてはいかがですか。」
………。

「                ?」

…それだけは、貴方に言われたくなかったなぁ


刹那───私の中で、何かが壊れてしまった。


「はい。大変申し訳ありませんでした。」


〈教祖様〉は全て正しい訳では無かった。それでも正しい人間だった。
それに今まで気づけなかった私が悪かったのだ。人生ではじめて恨んだ人間が、〈教祖様〉だったのは私の一番の失敗である。
私は〈教祖様〉を誰よりも強く信じていた分、馬鹿な〈信者〉どもよりも、〈教祖様〉に対して失望してしまったのだ。

私は神を信じている。
神は私に、失敗を意義あるものにしてくれると信じている。

「〈先生〉。私の将来の夢、決まりました。」


私は〈教祖様〉を否定したい。

〈教祖様〉はもっと完壁で優しくて正しい、愛のある何かであるべきなのだ。


「私は〈先生〉と同じ、教師になります。」


私は誰よりも狂信者なのだと、自分に言い聞かせた。

4/28/2024, 3:43:50 PM