せつか

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推しが死んだその日、私達は授業も何も手につかなくて、この世の終わりかというくらい憔悴していた。
同じ学校の見知らぬ誰かが事故だかなんだか死んだと全校集会で聞かされた時より遥かに大きいその衝撃は、いつもくだらない事でバカ笑いする私達を無口にさせた。
授業中もスマホで推しの死に関する情報を集めることがやめられず、先生に見つかってしこたま怒られた。
生徒指導室を同時に出て、顔を見合わせる。

「·····」
二人ともマスカラが溶け落ちて、涙が黒くなっていた。
先生に説明(という名の言い訳)をしていて自然と流れたものだろう。抑えられない気持ちの証拠に、流れた黒い筋がほとんど漫画みたいになっていた。
「·····ぷっ」
二人同時に噴き出して、そこから堰を切ったように笑い始めた。ひとしきり笑ったら教室に戻るのが何だかバカらしくなって、二人してサボった。

カラオケに飛び込んだ私達はそれから六時間、ぶっ通しで推しの歌を歌いまくった。
片手で数えられるほどしかない推しの楽曲は、どれも私達にとっては神曲だった。
部屋に据え付けられた鏡に、泣きながら歌う私達二人の顔が映っている。

学校を抜け出す直前、せっかく直した化粧がまた崩れて、二人して黒い涙を流している。
それは今まで流してきた透明な涙と同じか、それ以上に美しいものとして私の目に映った。


END


「透明な涙」

1/16/2025, 3:06:33 PM