池上さゆり

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 時を告げる鳥と書いて時告げ鳥。朝を知らせてくれるということで昔から鶏のことを指すらしい。
 私はその呼び方を知った時、なんだか嬉しく思った。家で飼っている卵用鳥に小さい頃から愛着を持っていたから、そんなかっこいい呼び名があることに感動した。
 実際、朝は鶏の鳴き声で起きることが多かった。毎日、挨拶してみんな撫でてから学校に行っているせいで家畜くさいと虐められたこともあったが、今は全く気にしていない。
 ある日、いつものように鶏の様子を見に行くとなんだか違和感があった。なんとなく、鶏の数が減っているような気がするのだ。気のせいだろうと思って、あまり考えないようにしていたが、日に日に採れる卵の数が減っていった。
「ねぇ、お母さん。最近、鶏の数減ってない?」
「やっぱりそうよね!? お母さんの気のせいじゃないわよね!?」
 やはりそうだ。母といつからなのか、どのくらい減ったのか、話し合ってみたが、全てが一致する。お互いこれは勘違いではないと確信して、防犯のために監視カメラを設置することにした。
 数日、変化はなかった。だが、ある日突然不審者が映った。高校生か大学生ぐらいの細身の男性だった。どこから侵入してきたのかまでは、わからない。その人は不自然なほどに慣れた手つきで鶏小屋の鍵を開けた。知らない人が入ってくると、騒ぎ出す鶏たちも静かだった。
 やがて、その人は片手に鶏を二匹捕まえた状態で小屋から出てきた。その動画を母と見て絶句していた。そして私は。
「これ、弟じゃないの」
 母は黙ったままだったが、そうとしか思えなかった。本人を問い詰めるのは簡単だが、頭が混乱していてどうするべきかわからなかった。
 家族同然として育ててきた鶏を、弟が殺している。

9/6/2023, 2:22:07 PM