わをん

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『時計の針』

ノートパソコンに開いた白紙のエディターと見つめ合ってからずいぶんと経つ。散歩には行ったしコーヒーもまあまあ飲んだので気分転換はもうできない。明日やろう作戦は期日が迫っているのでもう効かない。時計の秒針が立てる音が普段は気にならないのに今はやけに気になってしまっている。もう一回ぐらい散歩に行っておこうかと思っていると、どんよりとした曇り空から雨粒がいくつも落ちて部屋の窓をしとどに濡らしたので希望が潰えた。
「雨かぁ」
薄暗くなった部屋から降りしきる雨の様子をぼんやり見つめ、小学生の夏休みの頃から追い込み型が変わっていないなぁとぼんやり思う。のろのろとノートパソコンの前に戻り、とりあえず空白を埋めるべくキーを叩く。次第に筆が乗る感覚があり、これならイケるかもしれないという思いと、いや油断するとケガをするぞという思いとが同時に湧き上がる。ノートパソコンのバックライトが暗くなった部屋を照らし、キーボードを叩く音だけが響く。秒針の音は存在を薄れさせていった。

2/7/2024, 3:41:26 AM