名前の無い音

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『帰り道』


仕事が終わって 会社を出た時は
まだ 曇り空だったのに
最寄りの駅に着いた頃には
しっとりと 雨が降っていた

朝の天気予報で
夜から 雨だと 言っていたから
傘は ちゃんと持って来た

駅を出て ちょうど歩き始めた時
彼から 電話がきた

『もしもし?』
「お疲れ様」
『おつかれ 今……駅でしょ?』
「どうしてわかるの?」
『なんとなくね』

彼が ふふっと笑う
私は彼の ちょっと笑う この声が 好きだ

『今日は 少し疲れた』
「あれ そうなんだ 体調大丈夫?」
『うーん あんまり』
「そっか……無理しないでね」

私は 傘をさしながら ゆっくりと歩く

「なんか ごめんね 何も出来なくて」
『大丈夫だよ』
「私に出来ること 何かある?」
『こうやって繋がっていてくれるだけで 充分だよ』
「……私も ずっと繋がっていたいよ」

彼の事 好きなんだけど
「好き」だけですませたくない
大切で 必要で ホントにホントに……

私は 言葉に詰まってしまった

『ねぇ?』
「……なに?」
『こっちもさ 今 帰りなんだ』
「そうなんだね」
『雨 降ってる?』
「うん」
『こっちも雨だよ ねぇ今 傘さしてるでしょ?』
「もちろん」
『遠隔 相合傘 ってところかな?』

彼がまた ふふっと笑う

「……面白くなーいー!」
『そう?』

でも ちょっとだけ あなたが隣に居るみたい

『家に着くまで もう少し 話せる?』
「もちろん」
『……会いたいね』
「うん……会いたい」

会えない時間は
愛おしさを 育ててくれる

「明日も 雨だといいな」
『どうして?』
「相合傘 したいから」
『そっか でも……』
「なに?」

『晴れたら 手を繋ごうよ』

「……うん!」


大切な人 大切な人
どうか ずっと ずーっと
あなたと繋がっていられますように






6/20/2022, 10:09:36 AM