輪手輪ダーリン

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妄想昔話 第3話


夜になり辺りが真っ暗闇になったころ
月明かりが人間の村を照らしていました。
その風景をぼんやりと霊狐が眺めていると
狐族の村に1つの火がツウっと
人間の村から近づいてきます。

人間が襲ってくるかもしれないと
霊狐は警戒をしながら
目を凝らして火を追い続けていました。
すると、火はどんどんと近づいてきて
40歳半ばくらいの年齢の
人間の男が松明を持ってやってきたのです。

身の危険を感じた霊狐は
眼前に現れた男をとっさに噛みついて
追い返そうとしたとき男が

『姉さん!』と叫んだのです。

何を言っているのか分からず
霊狐が呆けていると
男は続けて叫びました。

『僕だよ、天狐だよ!人間の姿をしているけど
僕は天狐なんだよ!』

霊狐はわけが分からず
困惑した表情をしていると
男は静かに事のあらましを語ったのでした。

男の話によると
男の名前は源蔵といって
あの村の村長でした。

1年前、村にとって不吉をもたらす存在
ということで、村長自ら狐狩りを行ない
天狐と仲間たちを殺していったとの事。

そして、天狐が源蔵に殺された瞬間
摩訶不思議なことに
天狐の魂が源蔵の肉体に入っていき
小さな自我として現世に留まったのです。

そして、1年かけて天狐の魂が
源蔵の精気を吸いとって
ついには自我を乗っ取ったというのでした。

見た目は人間の男なのに、内面は天狐という
不可解な現象に、霊狐は困惑していましたが
話し方が弟とあまりにそっくりだったので
これが現実であると信じ始めるのでした。


次回テーマに続く

"夜景"

9/19/2023, 9:03:22 AM