『君と紡ぐ物語』
青い広大な空を見上げた。
どこまでも、どこまでも続く空。
――君となら、どこまでも飛んでいける気がした。
……しただけ、だった。
「君と紡ぐ物語も、ここで終わりだね」
深刻そうに眉間に皺を寄せて、歯をキツく食いしばった彼の顔を見て言う。
ドクドクと腹に空いた穴から真っ赤な血液が、水袋に空いた穴のようにこぼれ出して止まらない。
……ああ、もう駄目だな。そう判断したのは、当たり前の事だろう。
今まで、色んな事があった。
村の幼馴染だった君が聖剣の担い手に選ばれて勇者になって、僕は頑張って君に着いて行った。
ただの村の本好きな村人の僕が、足手まといだっただろう。
それでも君はずっと褒めてくれていた。着いてきてくれて嬉しいと笑っていてくれた。
……でも、もう此処で終わりだ。
君と森の果実をもぎ取って分け合う事も。
隣の偏屈な爺さんにイタズラを仕掛ける事も。
都会の大きさにビックリして迷子にならないように手を繋いで歩く事も。
初めての娼館に足を踏み入れて顎髭のオカマ姿に遭遇して一緒に逃げかえる事も。
森の中で焚き火を囲みながら将来どうしたいか星を観ながら語り合う事も。
魔物とのバトルで背中を預けて戦う事も。
……君に、最高の親友なんだって言われる事も。
ここで、終わりだ。
「…………死ぬな」
「ようやく、放った、ことばが、それか……かはっ」
回復魔法なんて、御伽噺の産物は存在しない。
いつだって、死は自分の側にある。
そう、それが今来てしまっただけの事だ。
もう、君の姿が霞んでしまって視えない。
だから、君がどんな顔をしているのかは分からないけど……。
でも、一言だけ。
「いきろ」
君と紡ぐ物語は此処で終わりだけど、
君の親友でいられて僕は幸せでした。
おわり
12/1/2025, 4:12:59 AM