─ゆずの香り─
家に帰り、「ただいま」と言う。
木霊したその言葉に対して、「おかえり」なんて返ってこない。
僕以外の人は居ないのだから。
今日は失敗ばかりだったな、と1日を振り返る。
洗濯物を取り入れるのを忘れて窓が開きっぱなしになっていたり、
会社で上司に怒られているのを同僚達に怪訝な見られたり、
何故か知らないが部屋は異様に汚れているし。
掃除する羽目になり、足腰が痛くなった。
しかし、朝用意していたゆずの香りの入浴剤を風呂にいれ、
優しく、何処か酸っぱい香りに包まれながら入浴した。
風呂を上がり、そのまま寝ようとした所、寝室から物音がした。
やっぱり泥棒が入っていたのか?と不安になりながら、
そっと扉を開けると、そこには一匹の黒猫が居た。
まるで元から住んでましたとでも言うように、
こちらを綺麗な碧色の目で見つめてくる。
お互いに沈黙が続いていた所、
猫が痺れを切らしたように、またベットで寝だした。
今気付いたが、ベットには無数の肉球の跡がついていた。
嗚呼、今日の夜は寂しくなさそうだな。
12/22/2023, 4:11:38 PM